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した。その時私は、もう一度驚かされました。食卓には、いつもと違
っておいしそうなご馳走が並べられていました。食べ始めるとすぐ
に、父が帰ってきました。私はの心には、また緊張感が走りました。
「もうこれでもうおしまいだ」と心の中で思いました。夕食の席に着
いた父は、「今日は、何も変わったことはなかったかね?」とたずねま
した。すると母は、「特に何もありませんでした」と答えたのです。

家族のみんなが、久しぶりのご馳走を食べているのに、私は食べ
物がのどを通りませんでした。何かが込み上げてくるようでした。と
うとう私は、スプーンを置いて、泣き出してしまいました。「いったい
どうしたんだ?」。わけの分からない父が聞きましたが、誰も何も言
いませんでした。私は、罰を受けるのが怖くて泣いたのではありませ
んでした。恥ずかしくて泣いたのでもありません。私が泣いたのは、
母親の私に対する愛に、感極まったからでした。

この日以来、戦争ごっこをしたいという欲求は、霧が晴れるように
消えてしまいました。あれほど打ち勝つことが難しかった誘惑も、今
は、何の問題にもならなくなりました。二度と母の心を悲しませては
いけないという思いだけが、私の心にあふれてきました。

母の赦しと愛は、私の心の中に深く根付いていた、戦争ごっこをし
たいという欲求を溶かし、その日以来、私は一度も戦争ごっこに加わ
ることはありませんでした。母の愛が、私の頭と心に、「戦争ごっこを
してはいけない」という律法を刻みつけてくれました。

「二度と戦争ごっこをしないように!」。それまでは、どうしても守
ることの出来なかったその命令が、今は従うことがとてもたやすく
なったのです。今は、母の言うことに何でも従いたいという気持ちに
なったのでした。これまでは、従おうと思っても従うことが出来ず、

74 │ 聖所‐福音の道しるべ
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